再エネ主力電源化の新たな課題「電力系統の慣性低下」に迫る、エナリスの挑戦-脱炭素社会を支える次世代インフラの最前線-
2026年11月06日2050年のカーボンニュートラル達成に向け、全国で太陽光や風力といった再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大が加速しています。しかし、再エネの普及に伴い、各地の電力網ではこれまでにない技術的課題が表面化しています。
そのひとつが、配電系統をはじめとする特定エリアに太陽光などが集中することで発生する「局所的な系統混雑」です。エナリスは2024年度より、北海道大学大学院情報科学研究院と共同研究を行い、分散型エネルギーリソース(DER)を活用して電力需給を柔軟に調整する「ローカルフレキシビリティ」の検証に取り組んできました。
※本共同研究の詳細は、以下のプレスリリースをご参照ください。
エナリスニュースリリース:再エネの出力制御回避へ、ローカルフレキシビリティの研究を開始
系統混雑解消の先に潜む新たな課題——「慣性低下」とは
ローカルフレキシビリティにより配電系統の混雑を緩和し、再エネ導入量を増やしていった先には、さらなる課題が待ち受けています。それが、電力系統における「慣性(イナーシャ)の低下」です。
従来の火力発電所や水力発電所で使われる大型の「同期発電機」は、重いタービン(回転子)が一定速度で回り続けて発電します。その物理的な粘り強さ「慣性力」で、発電機の事故や急激な需要変動が起きた際にも周波数の急落を防ぐブレーキ役を果たし、系統の安定を守ってきました。
一方、太陽光や風力などの再エネ発電は物理的な回転子を持たず、インバータを通じて系統に接続されるため、慣性力を提供できません。再エネの割合が高まり大型の同期発電機の運転機会が減少すると、系統全体の慣性が低下します。この状態で系統事故が起きると急激な周波数低下を招き、広域的な停電(ブラックアウト)に至るリスクが高まるのです。
切り札としての「GFMインバータ」——北海道大学との共同研究
この課題に対する解決策のひとつとして注目されているのが、「GFM(グリッドフォーミング/系統形成型)インバータ」です。従来の「GFL(グリッドフォローイング/系統追従型)インバータ」は、系統にある同期発電機が形成する電圧や周波数を検出し、これに同期して動作する「電流源」として機能します。一方、GFMインバータは自律的に電圧と周波数を生成し、自ら系統の基準となる「電圧源」として動作します。そのため、系統の周波数低下を検知した瞬間、蓄電池等から電力を自動放出し、同期発電機と同等の慣性を疑似的に実現できるのです。
エナリスは2026年6月より、北海道大学との新たな共同研究を開始しました。本研究では、配電系統でのGFMインバータの安定化寄与度評価手法の確立、季節・時間帯に応じた制御パラメータの最適管理、日常利用を阻害しない慣性供出可能量の算定について、シミュレーション等を駆使して検証を進めています。
先進地・北欧視察で得た世界の知見と未来への手応え
本研究の開始に先立つ2026年5月、エナリスは慣性低下対策において世界をリードする欧州の動向を把握するため、電力関連企業と合同の現地調査(ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、ルクセンブルク)に参画しました。
北欧4か国では、慣性低下対策として2020年より「FFR(Fast Frequency Reserve:高速周波数予備力)市場」が開設され、超高速で応答するリソースが取引されている実態を確認しました。大規模な洋上風力等を結ぶHVDC(高圧直流送電)の交直変換設備や、既存の発電所に併設された大規模蓄電池におけるGFMインバータの活用・検討が進んでおり、最先端の制度設計と運用の知見を獲得しました。


写真左:ミデルグルンデン洋上風力発電所を視察する不破上席研究員(デンマーク・コペンハーゲン)。今後、日本国内でも洋上風力にはHVDC(高圧直流送電)採用が想定されGFMインバータ活用が見込まれる。
写真右:ドイツ~スウェーデン間の系統連携用HVDCを構成するクルセベリ交直変換設備にて(スウェーデン・マルメ)。今後、日本国内でも系統連系用HVDCが計画されGFMインバータ採用が見込まれる。
5年後・10年後の脱炭素社会を支えるエネルギーインフラの構築へ
エナリスは「みらい研究所」を核とし、学術機関との共同研究や海外での先進事例調査を通じて、将来の社会課題に応えるエネルギーソリューションの創出を推進しています。本共同研究を牽引する同研究所の上席研究員・不破茂秀は、今回の取り組みの真意と未来への決意について次のように述べています。
「電力系統が抱える課題をひとつひとつ解決することが、脱炭素社会の実現に直結します。私たちはこれまでも低圧リソースを含めたDRやローカルフレキシビリティ等の研究・実証を重ね、確かな商用サービスへと結実させてきました。
この歩みを止めることなく、2026年度からはGFMインバータによる『慣性供出』という未開拓領域へ、パイオニアとして挑みます。研究開発と事業化を直結させ、新たなビジネス価値を創造するとともに、当社理念である『“当たり前”を変革する』を体現しながら、持続可能で強靭な次世代電力システムの実現に貢献してまいります。」
※本共同研究の詳細は、以下のプレスリリースをご参照ください。
